実感のあった高校の模擬講義

模擬講義のプレゼン資料を見る

(ダウンロードするか、iTunes for mac/winで見てください。早すぎて見えない場合には、ストップをしてください。)

 先日、阪神地区の高校で模擬講義を担当した。個別の高校と大学が提携する模擬講義もあるが、大半は間に教育業者が関与して、特定の高校の進路指導のために、専門分野ごとに大学を割り当てる場合が多い。双方にとって入試という接点を通じたつながりは、業者を媒介にした方がスムーズに進む。教育組織の連携が民間業者なしには進まない好例である。もっとも、この場合には、受け入れる大学にとっては、高校に対して極めて低姿勢に接することになる。状況によって、売り手買い手の立場が変わるのも必要なことだ。

私は、入試課から模擬講義への出講を依頼された時にはできるだけ行くことにしている。高校生の実情を知るいい機会になるし、自分を鍛える場であるからだ。と言っても、いつも講義がうまくいくわけではない。かなり前に、一度自分の無力さを根底から実感させられた体験をしたことがある。普通、模擬授業の場合、高校生はそれなりに真剣に聞いてくれるものなのだが、その時には、私が授業を始めて数分たつと一人の生徒が突然立ち上がり、高校の先生が急いで押さえに行く。するとまたしばらくすると、別の生徒が立ち上がる。彼らは特に悪気があるわけではない。要は、10分以上座ったまま講義を聞くことができないのである。こうした状況に直面して、準備していた授業内容も途中で思い切り変更せざるを得なくなり、しどろもどろになった。その時には頭が完全に真っ白になった。終業ベルが鳴り、這々の体で講義を終えたことがある。それ以来、どういう状況になっても困らないように、心の準備をしている。

話を戻す。先日の模擬講義は、進学校であった。私にとっては、初めての進学校だけにいろいろ準備した。最近、大学の授業でワークショップ的な内容を授業に盛り込もうとしているので、模擬講義でも試そうと、ゼミ生にも相談してアイデアを練った。私が考えた内容は、新聞記事の見出しを八個準備し、それを全国紙、地方紙、ネットニュース別に、記事の配列をするというものである。

しかし、アイデアはよかったが、前日にテストしてみて断念した。理由は難しすぎるからである。自分でも試してみたが、たとえば、「遺族癒えぬ心の傷 神戸連続児童殺傷事件から10年」という記事を、全国紙が一面のトップに持ってくるかどうかは、他の記事との関係もあるので、一概に言えない。地方紙でも、『「誇張」報告書でイラク戦争開戦…米国防総省監察報告』という記事がトップに来る場合もある。新聞社で記事の配列を決める担当は整理部だが、その仕事の大変さがわかった。

そこで、結局、通常の講義形式に戻すことにした。テーマは、「マスコミ関係」なので、後期の大学の授業で使用した素材に最新の素材をいれたプレゼンファイルを作った。ただ、当初の方針を捨てて転換することは、気持ちの問題もあるが、資料作成には深夜までかかった。方向転換は実に難しいし、苦労が多い。

授業参加者は少数であったが、女性ばかりであった。マスコミというテーマで女性ばかりというのがうれしくなった。関西のマスメディアの現場でも、以前は男性ばかりの職場であったが、現在では女性の進出が目立つ。女性の方が仕事が確実なので、評判がいいそうだ。(それはともかく授業終了後、高校教員にお尋ねしたら、放送部の女子生徒だろうとのこと。)

先日は、女性生徒ばかりだったが、授業開始前から、プレゼン資料のことを話題にして、大変ノリがよかった。プレゼン資料の動画部分や詳細部分は割愛しているので、ご容赦を。

最後に、高校への模擬講義は、授業担当だけでは入試業務としては目標の半分である。つまり、実際に高校生を当大学に導いていくことが望まれる。かといって、授業内で大学の宣伝をするのは、有名大学であれば別だが、そうでなければ逆効果である。初めから当大学を視野に入れていない大半の生徒には、テーマへの理解を深めてもらうことで十分である。それ以外の少数の生徒の中で、少しでも当大学に興味を持ってくれる生徒を発掘するのが望まれる。

模擬授業終了後に、当大学からのコンタクトを希望する生徒は、業者指定の書類に連絡先を書いてもらうことになる。この時には少数であるが、連絡先を書いてくれた。入試の営業活動としては、こういう成果こそうれしい。受講した生徒と高校、そして事前にコメントをくれたゼミ生に感謝をしたい。

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