自分の言語がコンピュータで書けない

週末に、市民コンピュータ研究会(JCAFE)主催のフォーラムが開催された。

テーマは、「世界情報社会サミットのこれから」ということで、このサミット(チュニジア)に参加された三名の会員が報告された。講師は、情報技術をめぐる制度や国際政治を研究されている原田至郎さん(東京大学情報学環)、そしてマイノリティによる情報技術活用と社会参加に取り組まれている柴田邦臣さん(大妻女子大学社会情報学部)、代表理事である浜田忠久さんである。

チュニジア・サミットは、2003年に開催されたジュネーブ・サミットの延長戦と位置づけられている。サミット関連の会議は、ほぼ毎月世界のいずれかの国で開催れているくらい大規模な会議であるが、わが国ではほとんど知られていない。ただ、チュニジア会場では、日本企業やNHK関係者の姿が目立つ、特にNHK関係者が多数いながら、なぜ国内メディアで放映されないのかが不思議だとのこと。

サミット自体は大変大規模であり、NGO関係者は政府や企業関係者と比べて会議参加が制限されている中で、市民社会のメンバーがどれだけ活躍しているのかについて柴田さんが説明してくれた。チュニジア政府にとっては、国際会議を招致することは国民向けにおいてアピールとなるが、NGO関係者の活動に対する規制を強めたギャップが会議の課題となった。わが国のメディアでこの会議が取り上げられたのは、会議内容ではなく、MITやアラン・ケイなどが発表した「100ドルPC」であった。デジタルデバイドを解消するため、発展途上国向けに安価なPC(Linuxで自家発電式)を発表したのであった。このプロジェクト自体は意欲的な試みであるにしても、これだけが会議のすべてではない。

続いて報告してくれた原田さんは、カンボジアの文字コードがunicodeに誤って登録されていることを知り、ここ数年専門的に研究されている。unicode自体は、世界的な文字コードをコンピュータに実装する試みとして評価されるが、それを策定するメンバーはほとんどが欧米の技術者だけであり、第三世界の言語を知らない。欧米偏重ということもあるが、むしろこれを作成しているのがISOとその関連組織であり、これらはNPOである。

かれらは、インターネットの伝統にしたがって、誰にも門戸を開いていると主張しているが、実際の会議に第三世界のメンバーが入る資金、語学力、知識に欠けているのであり、見切り発車の形で進めている。たしかにコンピュータの文字コードという私企業同士の問題であるが、実際にはその決定に多くのユーザや政府、企業なども拘束されるのであり、自由参加のNPOだけで作成してもいいのかどうかは課題が残る。

原田さんは、インターネットの世界では、国家を関与させない形で、技術者だけで運営するのが最善であるという楽観的な考えがあるが、技術者やNPOだけで任せていいのかは疑問である。確かに危険な側面もあるが、ある部分では国家を関与させた運営も必要になるのではないか。特に、こうした少数者の言語を保護する場合には必要である、という指摘をされた。

私は、UNICODEが少数者の言語に配慮していないということは是正する必要があるが、多数の少数言語を加えてきたときには実装する手間がかかりすぎるのであり、どのレベルで区別するのかという問題が出てくるのではないかという質問をした。

原田さんは、インターネットの楽観主義の問題点を指摘すると同時に、文字コードなどの標準化においては、専門家による決定(文化的多様性を守る)プロセスを入れることで、WTOにおける作成過程の変更で対処できるのではないかと回答された。

原田さんの報告を聞いて、国家を関与させないというインターネットの伝統は、現実世界における市民社会の考えとも共通しているのである、いずれも弱さを持っている。また逆に、国家の影響力が強い中で、国家の関与を認めることの危険性もある。現在のサミットでは、中国、ブラジルなどの中進国を中心に国家によるインターネットの全面管理を主張しているので、それとの差異化をしながら、市民社会の発展をはかる必要がある。

最後の浜田さんは、サミットにおけるNPO関係者の活動やサイバー犯罪条約について報告された。

だれが市民か、市民社会とNPOの相違、国家の関与とNPOの対処、文化的多様性の保護など多様な問題が議論されたセミナーであった。

サミットに参加する市民社会のメンバーの中で三名がJCAFEのメンバーであることは誇るべきだが、同時にこのテーマについての議論が技術関係者以外に広がらない点はまだ改善できていない。そこから広げるためには、市民により密接したテーマや視点での切り込みが必要である。

注:写真に写っているのは原田さんですが、マスクをされているのは体調を崩されていたからです。しかし、一度話し出すとマスクをしているとは思えないくらい熱い話をされました。

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