今年半年だけ、ある女子大で日本語表現論の講義を担当させていただいた。
講義の最後に受講生が提出するのは、レポート形式の文章である。初めは堅めのテーマを書こうと思っていた受講生だが、こちらができるだけ大きな夢をとか、突拍子もない方がいいです、といったためたか、なかなか面白い夢が出てきた。
たとえば、世界三周旅行をしたいとか、トレンディードラマを環状線の駅毎に話にするとか、ストリートダンスをもっとビックにしたいとか、素人と出演者とが一体となったエンターテインメント番組とか、音楽・ファッション・文化の境を越えた雑誌を作るとか、自分の好きなことを考えていた。他には、夜更かしできない朝型人間が考えた深夜テレビ番組という企画はすごいと思った。祖父母の部屋にしかテレビがないため深夜番組が見られない学生があえて深夜番組を提案してきたのである。ふだんはこういうことは考えたことはないという。
なかでも一番感心したのは、「私は動くディズニーランドを作りたい」という夢だった。ディズニーランドが動くという発想自体がユニークだが、もっと驚いたのは、「私はこれまでディズニーランドに行ったことがない」ということばだった。関西生まれであっても、若い世代であれば、一度や二度は行っていてもおかしくないだけによけいに面白かった。こういう夢は大切にしないといけない。いや、ディズニーランドに負けない「動くディズニーランド」を考えることで人生が開けていくのだと思う。
このことを彼女もわかっているらしく、過疎地の廃校になった学校敷地に、独自に組織した役者養成組織と、都会では見られないアミューズメント施設とを結びつけた「動くディズニーランド」を構想した。読んでいてイメージがふくらんできた見事な文章だった。mixiに書いている彼女の文章も、力を抜きつつ、気持ちが籠もったものであるし、きっと下地はあるのだと思う。
しかし、一人だけが抜きんでていてもそれは授業としてはだめである。それが他にも波及することで教育的に評価できる。この授業の場合には、彼女一人ではなく、次々に豊かな発想が生まれていく連鎖が起こったようだ。受講生自身は自覚していないかもしれないが、それを読んでいる私にははっきりと見えた。こうした現場を見ていると、学生や初学者の可能性は無限なのだと思う。
彼女の夢を読んだ数日後に、ポケモンをテーマにした遊園地「ポケパーク」が台北で開催されるという記事を読んだ。これが成功すれば、今後世界各地で展開するようだ。遊園地が移動するという発想は、彼女の夢につながるが、過疎地域の学校施設を利用して、そこに役者養成学校を結びつけるという発想は、はるかに先を見ている。早めにビジネスモデルの特許を取得した方がいいかもしれない。
この夢を彼女自身が実現するのかどうかはわからない。他の学生もどうするのかはわからない。しかし、思いっきり背伸びした夢を考えると、さらに夢がふくらんでいくことは間違いない。私もそろそろ自分の夢を考えないといけない。突拍子もない夢を。