大学教育がキャリアとなる

 従来、大学で講義するのは、研究者か、その周辺にいる人に限られていた。ただ、語学や情報教育といったトレーニング科目の場合には、例外的に研究者以外を雇用するのが慣例となっていた。しかし、近年、それ以外の科目で研究者以外の実践家や市民も講義を担当しはじめている。こうした傾向については、春の学会で報告したいと思うので、ここではそれとは異なる授業について話したい。

大学教育において、一番難しいのは、大学一年生の初年次教育である。

難しい理由は様々あるが、

第一は専任教員のなかで初年次教育を専門とする担当者がいないことが大きい。通常の大学院を経て教員になったケースでは、専門教育を教えることはできても、専門を希望する学生以外を対象にした入門コースを教えることは不得意である。

第二は、入学してくる学生の学力の多様化である。

高校時点で大学の授業で必要な科目を履修していないだけでなく、必ずしも当該大学・専門分野を希望しない不本意入学した学生も多数存在している。こうした多様化した学生の意欲を喚起し、興味を持たせるためにはかなりの修練が必要である。

第三は、教員間や科目間の連携が不足していることである。

一授業がどれだけ充実していても、他科目とのつながりがないと受講生の能力を効果的に上げることができない。また、少人数の必修授業(例:基礎演習、日本語表現)の場合には、担当者全員が授業内容を統一化する必要がある。しかし、実際にはこうした連携をとることはなかなか実現していない。

今年度からはじまった精華大学人文学部基礎演習では、これを打開する方策を採用した。すなわち、他大学を含めて有能な院生をTA(ティーチング・アシスタント)として採用し、基礎演習責任者がかれらと授業内容について打合せ、そのTAを補佐する形で専任教員が配属されるという方式である。専任教員だけでは、統一的な授業内容が講義できなかった部分を、むしろTAが大半の授業を進める形で運営するために、授業がきわめて統一的かつ、スムーズに進行した。これについては、今年度のTAに学会報告をしてもらう予定にしているので、ここではこうしたシステムがキャリア形成に役立っている話をする。

応募してきたTAは、学内外の院生や学部卒業生である。多くは、将来的に教職や研究職を視野に入れている有能な人材である。その能力が買われて、来年度から大学の非常勤講師に採用されるだけでなく、専任教員や高校教員に採用される例も出てきた。かれらが専任教員に採用されるときには、基本的にはその分野での能力を認められることが前提だが、ある部分はこうしたTAでの教育経験が採用に有利に働いているようだ。応募書類にこの経験を記載したり、面接でその経験を話したりすると、採用側の反応がいい、とのこと。

ここでわかるのは、院生→TA→非常勤→専任教員というルートができつつあるということである。TAという教育経験は単なるコピー取りや教員のお手伝いに終わる限りは資源の無駄であるが、システムの一環として効果的に活用された場合にはきわめて有効に働く。特に、専任教員とペアにしたところでその真価が発揮される。

このように新しいキャリア形成ルートが生まれたことは、大学教育の変貌の結果である。それが望まれていながらも、依然多くの大学でそれが阻まれている現実は早急に改善する必要がある。

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