玉本英子さん講演内容

昨日、シリアから戻ったばかりの玉本さんですが、疲れも見せず、持ち帰ったアラブのコーヒーを自製され、クッキーを持ち帰って、参加者にふるまっておられました。スライドと現地撮影したビデオ映像を参照しながらのお話です。

今回は、クルド自治区に滞在しながら、イラク北部のモスル、キルクークなどを取材された。自治区の中心都市はアルビルで、そこには治安が悪化しているバクダッドなどからの移住者が多いとのこと。

お話しされたことで興味深いことがいくつかあります。

1.電気、水道などのインフラは一日の内で何時間しか稼働しないし、武装勢力の活動や金目当ての誘拐が頻発している。突発的に生じる武力活動も含めて、この状態がいつまで続くのかという住民の不安が大きいこと。

2.武装勢力に対する住民の見方について。自爆攻撃をおこなう多くは外国人であり、彼らが聖戦を信じて狂信的に行動することが住民にとっては不安要因となっている。

3.新生イラク! 軍兵士の家族を取材してみると、兵士本人は職務に対する誇りを持っている。しかし、子供を兵士にしたいかと聞くと、絶対させたくない、と返答する。この返答は、彼にかぎらず、これまで聞いた、他国を含む、ほとんどの兵士がそう答える。自分の職務と家族に対する態度との相違が兵士の特徴である。

4.イラク人の人気番組は、アルジャジーラなどのニュース番組ではない。「テロ」や破壊活動などの報道には飽き飽きしているようだ。したがって、娯楽番組に人気がある。また、同様に、チャットなどのインターネットは都市部の若者にはかなり浸透している。

5.今年に入ってイラク国内で取材活動を行った日本人ジャーナリストは、フリーが6名程度で、その他NHKがバクダッドに滞在。NHKは、他の問題で騒がれているが、イラク報道に関しては記者を常駐させている。唯一のマスメディアとして意味がある。

6.戦争地域の報道においては、どうしても戦闘場面ばかりになり、死傷者の数だけが報道されて人間が数としてしか見られていない。玉本さんは、そうではなく、兵士も民間人も生身の人間であり、そこの習慣や食べ物などの文化面での人間を知ることなしには理解したとは言えない。そうした側面も伝えることがジャーリストの玉本さんとして重要である、とのこと。

イラク人や国全体を語ることは、現状の混乱の中では非常に難しいのであり、他国(特に、米国)との関係から機械的にイラクを見る報道や意見は、必ずしも現地の住民多数を代表しているとは言えない。自身が見て、聞いて、検証したことだけを訴えていきたいという彼女の姿勢は、ジャーリストとしての理性を象徴し、それがアジアプレスのポリシーなのだと思う。

イラク報道がマスメディアから少なくなるにつれて、彼らの役割は大きくなるのだが、その意図は必ずしもわれわれに伝えられることが少ない。いい古されたことであるが、改めて言わなければならないのが、フリージャーナリストの作品を公開する場所の確保である。作品が公開された初めて彼らは説得力が出てくる。複数の都市やホールでどこかで上映している、あるいは情報が得られるシステムを作ることが望まれる。

われわれもできることを考えよう。

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