伝統的な大学教員の養成システムは、単線的であった。
つまり、わが国の大学院博士課程単位取得退学後に大学教員になるのが一般的であった。そこでは、指導教員やその出身大学・専門分野の伝統を継承しながら、研究者としての知識にとどまらず、研究者のライフスタイルまで形成されるのが普通である。
その場合のスタイルには、二つのことが含まれる。一つは、学者として大成するための生き方を意味する。もちろん、誰もが大成するわけではないのだが、それに向けた学者像を持ち続けることが重要である。もう一つは、研究テーマは少しずつ変化しても構わないが、所属する専門分野の枠内での活動に限定することである。この枠は、多くの場合、有力学会の学問的広がりと関連している。つまり、法学関係の学会と美学関係の学会とは会員の重なりはほとんどない。このことは、学問的な関連性がないと言える。
私の場合、あまり勉強熱心な大学院生ではなかったので大きな事は言えないが、学者になった当初には伝統的なスタイルを継承していた。もちろん、伝統的なスタイルのメリットも否定しないが、私の場合には、多くは私自身の責任のためにそこから離れることになった。特に、所属する学会の変容が激しい点である。元来は、ドイツ現代史であり、国際関係論であったのが、今ではNPO、大学教育、コンピュータ関係の学会のつながりが深い。
私が伝統的なスタイルから離れた理由は、
- 努力不足が最大の理由にせよ、自身の研究分野に対する強い関心を持ち続けることができなかったこと。
- 戦前から分厚い研究層が存在する分野では、自身が開拓できる分野は少なかったこと。
- 教養部に所属していたことから、他分野研究者との交流に興味があったこと。
以上の理由の他に、
最大の理由は、目前の教育改革の必要性とそこでの自分の役割を自覚したことにある。
日頃の教育活動から見て、大学教育にとどまらず、研究分野でも改善する必要があると認識したからである。
しかし、従来の分野での研究はやめても、研究自体は辞めたわけではない。つまり、研究分野が変化すると同時に、教育活動自体を研究活動と考えることで研究分野自体はむしろ増えることになった。NPO、e-learning、大学教育という三つが現在の研究分野である。
なぜ研究分野がこの三つになったのかと言われても明確な理由はない。ただ目前の関心事に邁進したら、結果的にそうなったと言わざるを得ない。しかも、三つの関連性についても、まだまとまり切れていないが、昨年のシンポジウムをきっかけに考えているのが、大学の使命と関連しているのではないかと思っている。
もっとも、大学の使命と三つの分野とはどれだけ関連しているのかはまだ詰め切れていないので、使命だけは明らかにしておこう。
第一は、教養の涵養である。
第二は、キャリア形成である。
第三は、社会的価値の創出である。
これらと三つの分野との関連についてはまたの機会に話したいと思うが、いずれにしても私が言いたいのは、専門分野に閉じこもるよりも、複数の専門分野に取り組むメリットを享受することである。近年、この必要性がより高まっているのであり、伝統的な研究スタイルの転換が問われているのである。