先日、ラジオカフェで中西印刷専務の中西秀彦さんをお招きして、お話を伺った。テーマは、
「電子出版と紙出版の行方と私たち〜市民の情報発信の拡大と出版の可能性〜」と題して、印刷・出版業界の
話から将来のわれわれの生活の変化についても語っていただいた。
出版印刷業界は、売れ行きが大幅に低下しているところで、危機に瀕している。その中で、市民の情報発信を促進する環境は高まっているが、業界自体はそれに追いついていないし、また有効な突破口を見いだせないでいる。
その中で、本の愛好者としては、コンテンツよりも、紙という形態に限りなく愛情を持ちつつも、経営者としては、紙からの脱却を図ろうとする両面を持っているとのこと。中西さんが話された内容で一番衝撃的だったのは、「近い将来、紙は貴重品になります」ということである。なぜ貴重品になるのか。それは、現在急速に経済成長しているインドと中国という人口大国ではまだ紙の消費がわずかだが、日常生活に本格的に紙が使われると、爆発的な消費量となる。そうなると、紙はもはや本に使うことはできないであろう、ということだった。
そこで、本は、紙から電子本や電子ペーパーへと移行するであろうが、どのようになるのかはまだ未知数である。ただ、
紙とか電子化とか、いろいろ技術的なことはあるにせよ、それを提供する側と、受け手(消費者)との間にきちんとした需要と供給の関係が成り立っているのかという意見も会場から寄せられました。
消費者のニーズよりも、安定した既得領域で商品開発したがる業界の体質は、失敗に終わるだろうとのこと。軽妙なかたりくちの一方で、衝撃的な話が次から次へと飛び出してきた二時間であった。
中西さんと知り合ったのは、1990年代末、NPO学会学会誌のオンラインジャーナル化に携わったところからだった。木版印刷や活版印刷という伝統的な印刷会社としてトップクラスの位置を占めながらも、新しい時代へのチャレンジとして、オンラインジャーナルにも全面的に乗り出している。そういう実績を買って、たびたび一緒に仕事をすることとなった。
オンラインジャーナルへの理想が高すぎて、その学会誌オンラインシステムのインフラを提供していた科学技術庁や文部省とは折り合いがつかなかった。私も、学会の位置をめぐって、かなり批判されたものだった。そうして批判されながらも、最終的には私や中西さんの理想へと近づいているのである。
小松左京さんとも親しく、小松左京研究会の代表をつとめるなど多彩な趣味が、経営にもプラスになっていると思う。中西さんと久しぶりに一緒に仕事して、また一歩先んじられてしまったという気がする。