*アジアプレス作品連続上映会
今週は、アジアプレス作品が大学で一週間上映されている。
関係者が講義に来られることもあり、大学側と先方との息があって、あれよあれよという間に、上映会が実現したとのこと。月曜日から水曜日までは、映画上映後に、監督自身の話も聞けるという豪華企画で、しかも無料。
この企画を学外の方にもお知らせしたら、他大学ではなかなかできない貴重な機会とうらやましがられた。
小規模大学だからこそ可能であったと言うこともあるが、それを実現する大学側の意欲には敬服する。こういう動きのできる大学に在籍していることは誇らしい気持ちだ。
火曜日に上映されたタイのHIV感染家族を主人公にした映画『昨日、今日、明日』は、封切りの時に見ていた。鹿児島から夜行バスで大阪に戻ってきた朝に、そのまま見に行ったのだった。
上映前に、直井監督とお話しした。タイでは、精華大の学生が実習に来ていたことは知っていたとのことで親近感を持っておられた。そして、ドキュメンタリーに向かう監督のスタンスとして、マスメディアにありがちなテーマや社会問題を扱う作品ではなく、現地の生活にとけ込んだところから、日常生活の素晴らしさを描きたかったとのこと。たしかにBGMもなく、日常の時間をひたすらゆっくり描いていた。家族と監督との信頼関係がそのまま出ていて、患者であっても当たり前の楽しさと生活を営む姿を描いている。
水曜日には、『ザルミーナー公開処刑されたアフガン女性を追ってー』
の上映と玉本英子監督の話があった。監督は、今春、イラクに三ヶ月滞在して取材しており、その際、テレビ取材でたびたび出演していたのを知っていたので、是非お話ししたかった。
直接お話した印象は、優しい目をしていたごく普通の魅力的な(!)女性であった。イラクでは、護衛数名に囲まれながら撮影していたとはとても信じられなかった。ただ、お話を伺って、現在の仕事に賭ける意欲や取材対象に対する敬意を大切にすることを力説された姿は、現地で鍛えられたジャーナリストそのものであった。
通訳を伴って、裁判資料を探し出し、ザルミーナが暴行を受けた事実を発見した。私は以前外交文書を扱った研究をしていたので、公文書から新しい発見を見つけ出す手間と、新しい事実を見逃すことも多いことを知っている。もちろん、事件を起こした彼女の心中は闇の中であるにしても、新しい事実を掘り起こしたことで、人間の多面性が浮かび上がっていく。ステレオタイプに人間を落とし込みがちなマスメディアとは異なるドキュメンタリー作品の面目躍如といったところである。
http://d.hatena.ne.jp/images/diary/y/ytsutsui/2005-07-14.jpg
「以前は、神戸屋ベーカリーのチラシを作っていた」という過去から、紆余曲折しながらドキュメンタリー制作者になった過程は、飛躍が大きいだけに興味深い。「別に戦争報道をしたいわけではないんです。興味のあったテーマがたまたま戦場に近かっただけで、私は、現地の人々の文化や気持ちを伝えたいだけなんです」と、学生を前にして淡々と語る様子を目撃したのはぐっと来た。
現地の羊料理や甘い食べ物に慣れてしまったという玉本さんも、関西人らしくお好み焼きが好きだった。そこで、私のお薦めの店に連れて行ったら、心底喜んでくれた(これでポイントゲット)。
次にまたお仕事をお頼みすることにしよう。
明日は、最終日。『ゴンプーの幸福な生活』という中国人の季丹監督が長期ロケでチベットの生活を描いた作品だ。監督が精華大卒業生であることは別にしても、「メッセージ色を出さないドキュメンタリーではアジアプレスの頂点だ。私はこの作品を見て、アジアプレスに入りました」という直井監督の言葉でよけいに期待がふくらんできた。実は、勧められる前から、この作品は楽しみにしていたのだった。
アジアプレスやドキュメンタリーとの幸運な出会いが間近に起こっている感動は堪えられないものである。