いつもアウェイの勝負をしているのだが、言語学の専門誌に論文を書くのはかなり緊張する。「大学生のための言語表現技法」という特集テーマの巻頭論文として私の原稿が掲載されるので、広い視野で書いてほしいというオーダーを受けていた。
論文のタイトルは、『日本語表現法の意義と今後の展望』である。これまでの事例の特殊性とともに、言語表現法(日本語表現法)の共通点が継承されているという視点で書いた。以前書いた原稿では、「言葉」と「ことば」という用法の相違から説明してきた内容を、時系列的な変化の中で捉え返した。この原稿を書いたおかげで、過去の歩みが自分の中で整理された。感謝する。
論文の出だしは、以下である。
大学存続の危機が叫ばれ、大学教育自体の形骸化も指摘されることがある。しかしこうした危機の時代には、伝統的な思考や体制を突き崩そうという動きも、周縁から起こってくる。日本語表現法は、その周縁から生まれた。そこは、専門分野を超えた大学教職員や学生が出会い、異なるバックボーンを持ちながらも、共通の「ことば」を発見する場である。本稿では、日本語表現法の誕生から今日までの過程を分析して、今後の展望を明らかにする。
10年前の同じ号に、高知大学の吉倉紳一さんがお書きになった論文が、日本語表現法が全国に広がったことを実感させてくれた点で、私にとっては記憶に留めるべき雑誌であった。その十年後にこの雑誌から依頼が来たことに不思議な縁を感じさせてくれる。
同じ号には、荒木晶子さん、向後千春さん、門倉正美さんという逸材達も執筆している。いずれも日本語表現法に向けたそれぞれのアプローチで書かれた労作である。日本語表現法の最先端を知りたい場合には、是非ご購入ください。