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先週金曜日夜、情報館のマルチメディア講演会で、「報道を変えるハンディカメラの可能性 ―戦争後のイラクでは何が起こっているのか-」と題して、「アジアプレス・インターナショナル」所属のビデオ・ジャーナリストの玉本英子さんの講演会が開催された。
このブログでも何度か紹介しているように、イラク取材を継続している数少ない日本人女性ジャーナリストである。大学の授業でも、学生向けにドキュメンタリー制作の入門コースを担当していただいている。しかし、彼女の本職を披露していただいてこそ、大学で教えたことになると思い、学内関係者の協力によって今回の講演会が実現した。
前半は、大学側の希望で、ビデオ・ジャーナリストや映像を活用した取材の意味についてお話ししてもらった。イラクで武装集団に拉致された日本人事件のレポートや、玉本さんが取材するテレビ映像などの交えながら、誰でもが撮影できるビデオ機材の普及によってビデオ・ジャーナリストの活動も劇的に変わったことを説明した。
もちろん、こうした説明も面白かったのだが、圧巻は後半のイラクの最新映像をまじえたトークであった。フリー・ジャーナリストとしては、イラク報道の中心である首都バクダッドを拠点にしたいと思った。ただ、同僚の綿井健陽さんが滞在されたと同じく、バクダッドではホテルに入ったら、まったく外には出られず、ましてや一般人との会話をする余裕はまったくないとのこと。治安が不安定で、それこそ命を賭けた取材はできても、一般人とゆっくりした話をする取材は不可能であるため、比較的治安の安定した北部クルド人地区に拠点を構えて、国内避難民や市民の生活を取材しているとのこと。
彼女の取材で明らかになった点は次の点である。
1.9.11事件前後の外国人誘拐事件グループは、ごく普通の市民がやむにやまれる状況で実行したのであり、テロリスト=プロの兵士という図式は成立しないこと。もちろん、その後は状況が悪化して、外国人やプロの関与が濃厚となっているにせよ、過激な行動をおこなう人々を安易に社会的な脱落者と見てはいけないことを当事者に直接インタビューして、実証したこと。
2.イラクは、長年戦争が続いていながらも、市民の生活は比較的裕福であり、治安が不安になりつつも、その生活が維持されていることである。バクダッドやその他の治安が不安定な地域からクルド人地区に避難してくるイラク人が多数いる。しかし、彼は着の身着のままで移住してくるのではなく、全財産を抱えて移住してくるために比較的裕福であること。もちろん、大金持ちの人々は早めに海外に移住している人もいるが、そうでない人々は外国に避難するよりも、国内のより安定した地域に避難している。ただ、国内避難民の生活も、家賃はかなり急騰しているが、日本人のアパートに比べれば広いところに住んでいること。
3.イラクのクルド人地区のイラク国境周辺都市では、フセイン大統領の命令でガス攻撃で人口7万人中5千人が死亡した。イラクでは広島・長崎の原爆投下はかなり知られている。そこで、玉本さんは、日本の原爆被害について、イラクで原爆展を開催して、両国の交流を深めようとした。もちろん、原爆被害者としての日本だけではなく、大陸での侵略をおこなった加害者としての日本の側面も展示したとのこと。この原爆展は、かなりの注目が集まり、国内外のメディアはもちろん、市民の参加も多かったこと。
彼女の講演を聞きながら、私は、撮影していた。もちろん、彼女の許可を得ていた。しかし、講演の後半になって、佳境に入ってくると、話に引き込まれて撮影を忘れていた。それだけ彼女の話と映像の迫力があったということである。つくづく自分が情けない。ということで、前半のダイジェストしか撮影できなかったのだが、ご容赦を。